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今月のコラム

2012年9月のコラム

我が家のシロ

杉山 章

 私は3年ほど,単身で仙台に住んでいました。ある日,岐阜に住む妻から電話がありました。
 妻「犬,かうことにしたよ」(私:え?!)
 私「そうか…おじいちゃん,おばあちゃん,許してくれたの?」
 妻「うん,明日,引き取ってくる。モールが新装オープンして,ペットショップができたから,今がオープニングセールでチャンス。白い柴犬だよ」(私: えーっ! 本当に?! )
 私「そうか…もう契約とかしたの?」
 妻「うん」(私:泣)
 息子の願いと,それに託つけた妻の思いにより実現したようでした。義理の両親も,岐阜に残された娘と孫を不憫に思ったのでしょうか…。

 私はといえば,小学生の頃に飼っていたインコ,大学生の時に懐かれて実家に居着いたネコとかかわってきた程度でした。家の中に動物が歩いているなど想像がつかなかったこともあり,そもそも,動物が得意ではないと思っていました。何年も前に犬を飼うならロボットでも…とロボット犬を買ったぐらいなのでした。
 不安と不満が入り乱れる中,友だちに自分の思いを話すと,偶然にも,友だちは飼い犬を亡くしたばかりでした。「人間の身勝手で飼うんだ」「犬は好きな時に出かけられないんだよ」「人間より短い命なんだ」「とにかく散歩につきあってやれ」と,犬とのつきあい方について,こまごまと助言をもらいました。心構えができ少し気持ちが落ち着きました。
 
 仙台にいる間は,岐阜へ帰省するたびにシロとかかわりました。人間で言うと「少年?青年」の時期なのでしょうか。ご飯をあげたり,「おすわり」「おて」「ふせ」などを教えたり, 散歩に出かけたりしました。

 ご飯の時の「おすわり」「おて」「ふせ」の一連の流れを教える時は,二人がかりでした。一人がシロの前にご飯を置き注目を維持しつつ,ご飯を食べてもよいというサインを出し,何に注目してどう行動すればよいのかを明確にする役割(ご飯に注目してしまうので,こちらの顔やかけ声に注目できるように,ご飯を指さしてから,その指先を,人間の顔へゆっくり移動する)をして,もう一人が,シロの横にいてシロに手を添えて,身体の動き(腰に手を添えて腰を下げる,両前足をそっと持ってお腹を床につける)を教える役割をしました。数日繰り返すと,シロも要求されていることが理解できてきたようで,身についてきました。
 その頃は,散歩に出かけると,道ばたに落ちているタバコを口に入れたりしたので目が離せませんでした。タバコを口に入れた時は,その場で止まりすぐにシロの口に手を入れて取り出しました。散歩の時は,シロの様子をしっかり見ている必要があることが分かりました。タバコに近づいた時には,リードを引いてタバコに近づけないようにしました。家族の中で,そういった対応を共通理解しました。いつのまにか,シロはタバコに関心が無くなっていきました。
 
 シロが1歳になった頃,私は岐阜に戻ってきました。シロは口の周りに短いひげも生えてきて,大人の貫禄も出てきました。シロと毎日を過ごすと,いろいろな様子に気がつきました。シロは新しいものに興味津々で,そして人間の様子をとてもよく見ているのでした。人間が思っている以上に,シロは私たち家族の様子をよく観察しているようでした。
 
 買い物から帰ってくると,買い物袋に頭を突っ込んで匂いをかぐシロ。家族の車や自転車の音がすると,玄関までのアプローチを急いで見に行ったり,居間の出入り口までしっぽを振って迎えにいくシロ。Amazonから本が届いて包みを開けるのを見ていると,すぐにやってくるシロ。仕事から帰ると,ソファーを飛び越えて,しっぽを振りながら耳を後ろに倒して喜ぶシロ。飲み会から遅く帰宅しても,ソファーから降りて,身を寄せにくるシロ。食卓に人が座ると,何かしらよいことがあるに違いないと近くへ来るシロ。シロのご飯が入っている缶の近くに人が立つと,ソファーで寝ていても顔を上げ,視線を向けるシロ。
 
 シロの散歩は,さながら小学生の「地域探検」でした。シロは,専ら,いろいろな場所の匂いや飼われている近所の犬に興味があるようでした。私も「この道はここにつながっていたのか」「この家には黒い大きな犬がいる」など,発見もあり,新鮮な気持ちで散歩しました。
 しかし, そういった新鮮な気持ちは,最初だけでした。散歩は,風の向くまま気の向くまま匂いの向くまま,2時間半に及んだこともありました。 同じ所を何度も歩くこともあり,シロに対して「早く帰ろう!」「いつまで散歩するのかな…」とネガティブな思いも生まれてきて,早く帰りたいと思うことが,多々ありました。(今でもあります。)そこで思い出すのは,友だちからの助言でした。「犬は人間より寿命が短いんだから」「好きな時には出かけられないんだから」といった言葉を思いだし,我慢しながらシロにつきあいました。
 シロの散歩につきあう中で,私の中に気づきが生まれてきました。ひとつは,シロの興味に対する気づきでした。シロの気になる場所があること,気になる場所には特徴があること,気になる場所の中でも特別な場所があること等に気がつきました。もうひとつは,シロのリード持つ自分自身に対する気づきでした。自分が,シロに対してネガティブな思いを持つ時は,いつまで散歩が続くか分からないといった見通しを持つことができない時や,まったくどう対応してよいのか分からない時でした。
 
 このような気づきを元に,私はシロに対するネガティブな思いを持たないようにするにはどうしたらいいのか考えました。至った結論は「シロの行動や散歩コースを予測する」でした。「この場所の匂いをかぐぞ」「この角は右へ曲がるぞ」「右へ曲がる時は,あのコースを通るぞ」のように散歩の途中で,自分の中で「アタリ」「ハズレ」を考えながら,散歩したのです。私は,シロの散歩コースに,清水川コース,城趾コース,永井町コースなど,名称を与えました。コースの予想が立つようになると,ただ我慢でしかなかった散歩が,だんだん面白くなってきました。「今日は清水川コースだけだった…短かったな」「このままいくと,永井町コースだな」とか,自分に余裕が出てきたように思いました。 時にはリードをチョイチョイと引いて誘い,シロがその誘いにのってくれることもありました。そういう時は,とてもうれしくなりました。
 時々,iPhoneのGPSアプリで,散歩コースをトラッキングし,距離を計測しました。平均は約2kmだったと記憶しています。万年運動不足の私には,とてもよい運動(?)です。運動とは言えないかもしれませんが…。

 現在,シロは4歳6ヶ月。成犬となり,人生(?)の最盛期を迎えています。家の中でも落ち着いて過ごすようになり,車で出かける事も大好きになりました。近所の地図も頭の中に入ったようで,散歩コースも固定してきて,やたらと長い時間の散歩はしなくなりました。
 シロと向き合う事で,たくさんのことに気がついたり,既知の知識と結びつく面白さを感じたりしています。
 
 最近,何よりも私がうれしいのは,シロのレスポンスの早さです。一緒に床でゴロゴロしていても,「ごはん食べよ」と言えば,すぐに身を起こし食べることができる体勢になり,「散歩行こうか」と言えば,居間の出入り口へ向かいすぐに散歩できる体勢になり,「ご飯の準備できたよ」と妻や義理の母が家族に声をかけると家族の誰よりも一番に食卓につき…家族の誰よりも早いレスポンスは,人間からすれば何気ないことも楽しみにしているようにも感じられます。レスポンスの早さ,自分も心がけねばならないところです。
 
 我が家では,息子は高校生になり思春期まっただ中の気難しいオーラを発しています。また,義理の両親もまだまだ元気とはいえ高齢になってきているのは事実であります。そのような中で,家族の誰もがシロが寝転んだり,眠ったり,遊んだりする様子を微笑ましく見ていたり,丸くなるシロをなで,シロの耳のシルキーな感覚を楽しんだり,食卓でシロの話題をする様子を見たりしていると,シロの存在が家族の潤滑油になっていることを実感します。
 
 シロ,ありがとう。散歩に行こうね。



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